見過ごしかけた刀装具に、心を動かされた日

刀装具の価格を見て、「高い」と感じたことがありますか?
私はあります。というか、最初の頃はほとんどすべてが高く感じていました。

目貫、鐔、縁頭……。
初めて見るジャンルは、たとえ価格が控えめであっても、「未知のもの」に対する緊張感のようなもので、どれもが高価な印象をまとっていました。

というわけで今回は、刀装具との向き合い方に関するお話です。

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一度離れて、それでも欲しかった刀装具

私は、気になる刀装具があっても、すぐに購入を決断しないようにしています。
一歩引いて冷静になることで、「本当に欲しいものかどうか」が見えてくると思うからです。

たいていは、一度お店を出て、しばらく散歩したり、どこかでお茶を飲んだりして気持ちを落ち着けます。
そうして時間が経つうちに、「あれ、さっきの刀装具、なんだか妙に印象に残ってるな……」と感じ始める。
何をしていても、ふと頭をよぎるのです。

この“後から思い出してしまう感覚”があるとき、私は「これは自分にとって意味のある出会いだったかもしれない」と考えるようにしています。
そうして再びお店に戻り、改めて手に取ってみると、最初に感じた魅力がやっぱりそこにあって、
「今ここで買わないと、後悔する気がする」と確信に変わることがあります。

たとえば、萩と鹿の意匠が施された縁頭との出会いがまさにそうでした。
鑑定書も付いていて、価格も決して安くなく、すぐに決めるには少し勇気が必要でした。

私は一度お店を出て、別の用事を済ませながらも、頭のどこかでずっとその縁頭のことを考えていました。
「あれを逃したら、もう出会えないかもしれない」と思ってしまったのです。

それから思い切ってお店に戻り、少し背伸びして購入したその縁頭は、今でも私の大切なコレクションのひとつです。
時間をおいても気持ちが残っていたことが、「自分にとって価値のあるものだった」と確信する、何よりの証明になりました。

高くなくても、惹かれるものはある

反対に、「これは比較的手頃だったのに」と思う鐔もあります。
小柄な燕の鐔で、表現はとてもシンプル。けれどそれがまた良くて、しかも燕という題材が私にとってとても身近で、愛着が湧きました。

華やかさや派手さはないけれど、気づくと何度も目に留まる。そんな刀装具です。

価値は「好きなポイント」が教えてくれる

刀装具の価値は、もちろん「素材の希少さ」や「技術の高さ」といった要素でも決まります。
でも、私自身が思うのは、「そのモノに好きなポイントが2つ以上見つかったら、それは自分にとって価値の高いものになり得る」ということです。

それが色なのか、意匠なのか、形状なのか。どんな理由でもよくて、自分なりに惹かれるポイントがあるかどうか。
結局はその“納得のいく理由”が自分の中にあるかどうかが、一番大切な気がしています。

とはいえ、それに「どれくらいのお金を払うべきか」はまた難しい話です。
同じ刀装具でも、店や時期によって価格はまったく異なります。
価値と価格の関係は、“市場”と“自分”の間に常に揺らいでいるもの──そう捉えるようになってから、少し気が楽になりました。

違和感さえ、心を動かした証拠かもしれない

“初見の印象”というのは、じつはとても大切です。
それがポジティブでもネガティブでも、何かしら心に引っかかったという事実こそが、本質に近づく入り口になることがあります。

たとえば、「なんだか妙な感じがする」「少し怖いかも」といった感情も、後から見れば、感性が揺れた証だったと気づくことがあるのです。
その違和感が、知識や経験が積み重なったとき、ようやく「そういうことだったのか」と言語化されていく。

私は、“心が動いたものには、何かしらのエネルギーが宿っている”と感じています。
だからこそ、最初の感覚を無視せず、そっと覚えておくようにしています。

迷ったら、自分の“好き”を信じてみる

刀装具を選ぶとき、私はまず「実物を見る」ことを大事にしています。
パッと見て(だいたい5秒以内)その時直感的に感じたことは忘れないようにする。

そして、その中に「惹かれるポイントが2つ以上」あれば、もし金銭的に無理がないのであれば、購入を考えてもいいと思っています。

でももし、どこかで少しでも「もやもや」する気持ちがあったら、一度その場を離れてみる。
そして、時間を置いても「あれ、もう一度見たいな」と思ったら、たぶんそれはご縁です。
もちろん、その間に他の方が買ってしまうかもしれませんが、それもまためぐりあいのひとつ。

価値というのは、数字で割り切れるようでいて、そう簡単には測れないものです。
自分だけの“好き”を信じて、納得できる形で刀装具と出会っていくこと。
それが、私なりの向き合い方です。

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