「万年青(おもと)」とは、文字どおり「万年も青々とした葉を保つ」ことから名づけられた植物です。
常緑であることから縁起がよいとされ、古くから日本人に親しまれてきました。
葉は厚く、艶があり、中心から大きく扇状に広がるその姿には、どこか凛とした気品があります。
また、鉢に植えられた万年青は、根が太く強く、葉先のゆるやかなカーブが静かな生命力を感じさせます。
とくに江戸時代以降は「観葉植物」としても品種が増え、園芸の世界で独自の文化が育まれていきました。
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もくじ
家運を守る“しるし”として
万年青は、その姿や性質から「家が栄える」象徴とされ、武家の間でも大切にされてきました。
引っ越しの際、新居に最初に運び入れるのは万年青──。
これは「家の繁栄が根づくように」という意味が込められた風習で、現代にも一部残っています。
また、婚礼の際の贈り物や、子どもの誕生祝いとして贈られることもありました。
葉が落ちず、いつも青く、根をしっかりと張る万年青の姿は、「絶えない家系」「安定した暮らし」「不動の心」の象徴でもあったのです。
このようにして、万年青は単なる植物以上の意味を持ち、「家」と「運命」を結びつける媒介として扱われていました。
美術意匠としての万年青
万年青は、その特異な形と意味の豊かさから、美術や工芸の題材としても好まれてきました。
たとえば琳派の画家たちは、静物としての万年青を描き、「常磐(ときわ)の象徴」として正月の床飾りなどに用いました。
また、陶磁器の絵付け、漆工の蒔絵などにもたびたび登場します。
そしてもちろん、刀装具の世界にもその姿が表現されています。
刀装具に刻まれた万年青の姿は、持ち主が込めた願いや生き方を象徴するものだったのかもしれません。
万年青の“静けさ”と“強さ”
どんな環境でも葉を落とさず、ひっそりと青さを保ち続ける万年青。
その姿は、まるで動じない精神の象徴のようにも思えます。
特別に美しい花を咲かせるわけでもなく、目立つわけでもない。
しかし、見つめているうちに、その静かな強さが胸に響いてくる。
そうした「控えめな美しさ」「強く静かな存在感」は、日本文化における理想のひとつでもあります。
武士にとって、あるいは工芸に携わる人々にとって、この“静かな不変”は強く心に残るテーマだったのではないでしょうか。
現代に伝わる万年青の姿
現代でも、万年青は盆栽として親しまれ、愛好家によって丁寧に育てられています。
神棚に供えられることも多く、特に新年には清らかな鉢が床の間を飾る光景が見られます。
また、風水では「気を整える植物」として評価され、玄関や書斎に置くことで場が清まるとされます。
その存在感は、さりげなく、しかし確かに場を支えるような力を持っているのです。
こうして、かつて武家の精神を支えた万年青は、いまも私たちの暮らしの中で静かに生き続けています。

ゆみのひとこと
昔、祖母の家の玄関に万年青の鉢がありました。
正直、子どもの頃は「なんか地味な植物だなあ」と思っていたんですけど、大人になってその意味を知ってから、見る目が変わりました。
今では、あの青い葉を見るたびに、なんだか落ち着くような、守られているような気がするんです。
“ずっと変わらないものがある”って、なんだかそれだけで安心できる気がしますね。

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